ネットで5分超の予告編を見てから、公開を心待ちにしていました。映画と宗教的な対話を行なっているような不思議な気持ちになる作品で、その壮大さに圧倒されます(時代・場所の異なる六つの物語が展開される映画です)。
「すべてはつながっている(Everything is connected)」というテーマが苦手な方もいるかもしれませんが、思想がどうこうというより、物語を感じてほしいです。私自身、この映画は好きですが、それを信じるかって言われると考えてしまいます。
この映画の日本版ポスターは、背景のみ、六つの物語のイメージがそれぞれ示されている英語版のものからネオ・ソウルの街並み一色に変更されています。ネオ・ソウルの風景になっているせいで、近未来SFのような雰囲気が醸し出されていますが、実際は六つの物語のうち、二つしか近未来に該当しないので、これは良くないと思います。SFっぽさを出したほうが客入りが良いという判断なのでしょうか…。私はSF色を出すよりも「六つの物語」というプロットの特徴を押しだしたほうが正しく理解され、制作者の意図に沿うのではないかと思いました。
正直、エンドクレジットで俳優が自分の思っている以上の役数を演じわけていることが分かって驚いてしまいました。特殊メイクにより、全くその俳優が演じていると判別がつかないものもありました。(男性と女性が入れ替わっているのもあるなんて!)
内容が濃いせいでしょうか、常に予告編を観ているかのようなスピードを感じてしまったので、欲を言えば3時間半でも良いからじっくり描いてほしかったです(=金かかるけど)。一方で私はシーンが次々と切り替わって時間軸交差が行われる映画が好きですし(作者の仕掛けを迎え撃ちたくなる感じ)、3時間弱とても充実していました。
…未来のことばかり書いてしまったので、次はほかの四つについてを。
私は男性作曲家の物語(1936年)が最も心に残りました。 離れた恋人との再会におけるすれ違いのカメラワーク…自殺に向かう青年の抑えた感情…。クラウド・アトラス六十奏(The cloud atlas sextet)は、この物語があるからこそ、さらに印象的なものへと変わります。音楽はほかにも迷宮に迷いこんだかのようなTravel to Edinburghがお気に入りです。
航海記(1849年)は映像の迫力がありました。元奴隷の密航者が試されるシーンのカットの切り替えが絶妙で、毒を飲まされるところも息がつまる思いでした。そして元奴隷Autuaの「目で分かる」と言わせても納得できる視線も印象的。
ルイサ・レイの時代(1973年)では、エレベータに閉じ込められるところの場面が好きです。赤い照明と湿度が感じられる密室。また、石油産業が原発を排除するために原発事故を起こそうとするというのは、私にとって非常に新しいかつ恐ろしい考えで戦慄を覚えました。
それにしても、老人介護施設からの脱出劇(2012年)は思わず笑ってしまいましたね(この映画で笑えるところがあるとは全く思ってなかった)。ここのオチはイングランドのスコットランド併合等の知識があるとより明確かもしれません。非常に不憫で愛らしいキャラクターをJ・ブロードベントが熱演。脱走を図るメンバーそれぞれの個性と役割、そして敵が明確で分かりやすく、軽快さもあります。
さらに、この脱出劇が忠実にソンミ(2144年)へと伝わるわけではなく、映画化されると少し変わってるところも良かったです。航海記にしても、ソンミの人生にしても、途中で途切れていたり、完全に真実ではない状態で伝わっていく。時代・土地を越えて、ただ全てが繋がっているというだけでなく、この繋がりの間には、語り/表現・伝達行為が必ず行われるんですね。
自身が書いた航海記(出版されて作曲家のもとへ)、作曲家の手紙(シックススミス宛て。さらにレイ、シックススミスの姪へ)、六十奏(レコードとしてレイへ、さらに未来へ…)、レイの話の推理小説(→編集者へ)、脱出劇を書いた小説(→映画でソンミへ)、ソンミの言葉(放送→予言書)、ザックリーの昔話(→子供たちへ)……というように……。
…長く書いてしまいましたが…(あ…ほとんどキャストの話書けてない…!)。
駆け足で要素が詰め込まれており、一度観て全てを理解することが難しい映画は悪い意味で「現代的」と言われてしまうかもしれませんが、少なくとも、六つの物語を同時進行させているのにもかかわらず、一本の映画としてまとめている点で評価できるのではないでしょうか(原作者の才能にも感服です)。この制作は困難だったのでは…(時代ごとに監督は違うようでしたが)。ちなみに、早速原作を図書館で予約しました。非常に楽しみです。映画では俳優が複数人物を演じることになっていたわけですが、小説では特徴を視覚的に伝えられないので、どのように言語化されていたのか(またはされていないのか)確認したいと思います。
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